寺前則彦設計室
Just Now works mind lounge column profile
 
建築という用語
先人の教え
建築の持つ意味
建築様式の意味
建築家の任務
学問としての居住環境
芸術としての建築
環境問題に対する配慮
 
 
 
建築という用語

建築は、人間が寒暑や風雨や攻撃から身を守るために家をつくり、また、神をまつり、祖先を葬るために記念物をつくることから始まりました。それゆえ建築術は、原始時代から人間の物質的要求と精神的要求の双方を満たすために役だってきたといえます。日々の生活に追われた狩猟時代には、これら二つのものに対する配慮には格別の差異がなかったと考えられますが、文明の発展と生活の余裕が目だってくるにつれ、神や祖先に関する記念物には、より耐久力のあるものを入念につくるべきだと考えるようになりました。

また、人々が大きな集団や集落をつくるにつれ、秩序維持のための階層差が生じ、権力者や有力者の家がよりりっぱにつくられるようになることも自然のなりゆきでした。こうして、宗教建造物はもちろんのこと、世俗的な建物においても、建築の規模の大きさや材料の選択・構築法の入念さ・装飾の豊かさなどによって、実用品としての建築の必要を超えるさまざまのくふうが行われ、建築はその建物の所有者や関係者の権威と財力、社会的地位や責任感・生活の哲学と理想、さらには文化・文明の推進者としての意欲や実行力を目に見える形で表現するものとなりました。

建築がもつこうした象徴性は、宗教建造物や支配者の宮殿・邸宅だけに働いているものではなく、庶民の住む町屋や農家にも存在するものなのです。それは、繰り返し試みられた建築術上のくふうから、地味ではあるが堅実で耐久性があり、どんな家族構成や生活形態であっても比較的便利に使える形式と形態がおのずから形づくられてきて、それぞれの国や地方や時代の人間生活の現実と理想を同時に示す生活哲学の鏡となっているからです。人々が、どんなに質素な建物であっても、様式性をもった民家に限りない魅力や意味深さを感ずるのはこのためです。


 
また建築は、たとえ一個人の所有物であっても、必ず都市や村落の一点景となるので、その町・その村の共有の所有物となる宿命をもっています。美しい宗教建造物や公共建築、また、りっぱな民家や町並みはその町の誇りとなり、郷土の標識として住民の愛郷心や団結心を呼び起こすものです。このようにして、建築は人間生活の最も現実的・具体的な舞台装置および背景として生まれ、しかも最も総合的且つ恒久的な文化・文明の証跡として、後世にも生きつづける可能性をもっています。